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記憶に残る店〜一乗寺(京都市左京区)にかつて存在した、ナタラージャの話①

20年前位かしら。とうの昔に消えてしまった店なのだけど、いまだ、多くの人の記憶に残る店。京都市左京区一乗寺の叡山電車駅からすぐの小さなビルの一階。洞穴みたいな、というか、どう見ても洞穴。どうして、こんな小綺麗なビルの、一階部分だけが古い洞穴になってるんだろう?と不思議に思って、近寄ってじろじろ見ちゃったくらい。

小さなインド国旗がはためいているから、かろうじて『店』とわかるけど、パッと見、なんだかよくわからない。洞穴にしか見えない。洞穴に、小さな古い木のボロい扉が付いている。小さなはめ殺しの木枠の窓もある。扉は一体どこから拾ってきたんだろう?と思うほど古くてボロいけど、それなりに厚みのある木製で、中は全く見えないし、はめ殺しの窓も木枠ばかりがゴツくてガラスはボロッと曇っているので、中は見えない。窓の下っていうか前っていうか、の部分の、普通なら花を植えたりメニューを出したりするようなスペースに、ゴツゴツした土、割れた素焼きの器のかけら、雑草、など。ゴミか?いや、確かに見た目は汚いけど、不潔な風でもなく、何やら作為的な意図の気配も感じられる。一口で言えば『怪しげ』なのだけど、自堕落とか怠惰という風でもない。

前を通りかかる度、わざとゆっくり歩きました。時々、スパイシーなカレーの匂いが漂いました。まあねえ、インド国旗が出てる店だから。メニューが出てないから、何がある店なのか、いくら位のお値段なのか、わからない。気になるけど、怖くて中に入れない。

ある時、たまたま扉が開いて、中から客らしき男性二人が外に出てきたところに出くわしました。薄暗い洞窟の中がチラリ。店の人らしい小柄な男性がちょこちょこっと出てきて、ペコっと頭を下げて客達を見送り、あたりをクルッと見回すと、クルッと踵を返し、店の脇の陰の通路に引っ込みました。スタッフ用の裏口があるらしい。変わった人だな、ペンギン歩きで。どこの国の人かしら。まあ、悪い人じゃなさそう。変な店じゃなさそう。

数日後、私は始めてナタラージャに行きました。

古くて小さな木の扉を開けて中に入ろうとすると、思った以上に扉が小さいので、少し頭を下げるようにしないと、ごつんとぶつけそう。中は真っ暗・・と最初は思ったけど、少し目が慣れてくると、うなぎの寝床のように奥に深く続く洞窟になっています。洞窟の奥には、ボーっと微かな灯りが灯っている。怖いので、奥には行かず、入り口近くの席に腰かけました。

古い木製の机と、やはり古そうな木製の椅子。真横には、厨房があって、厨房とホールの仕切りは洞穴をくりぬいたような格好。厨房への出入りは、やはり、小さな木製の扉。そういう仕様も、変わっていて、一体ここはどこの国?って感じ。インドか?中近東か?って感じ。

チャイは当時はまだ珍しくて、一体どんな飲み物かしら?と思いました。トイレはどこですか?と聞き、厨房の扉の真横の洗面台スペースに入り、絶句。トイレの扉を開けて、さらに絶句。

何これ、ここ何処、何なのこれは。

手桶🪣が置かれた、インドのトイレ。金隠しのない和式トイレみたいな形の。こんなトイレ、怖くて使えないわ〜🙅‍♀️🙅‍♀️🙅‍♀️

洗面所の蛇口。アンティークな真鍮製の、異国情緒たっぷりな蛇口に、お湯は出ません、と❌付いてる。トイレは、見れば見るほど怖い😨🥶😱今日は無理🙅‍♀️トイレはまた今度、チャレンジすることに決めて、真鍮製の蛇口をひねり、手を洗いました。蛇口をひねって水を止めようとしたけど、しっかり止まらない。ちょろちょろっと漏れる。しっかり捻ろうとすると、微かながたつきがあり、不安定。ぎゅーっとひねったら、ようやくちょろちょろが止まりました。これ、力の強い人が捻ったら壊れちゃうんじゃないかしら。

この店って、何から何までドキドキする💓💗💓💗💓

裸電球のぶら下がる厨房の中は、こうこうと明るくて、眩しい光が出窓のような穴からこぼれます。

白いソーサーに不透明なガラスのコップ。なみなみと注がれた熱々のジンジャー・チャイ。甜菜糖で甘くして、ゆっくり飲みました。美味しい〜🥰😋

次に店の前を通りかかった時、扉に小さな紙切れが一枚貼られていました。アルバイト募集の紙。胸がドキドキしました。だって、その時の私は、ちょうどアルバイトを探していたから👀😍

色々なこと、やってみたい。やったことない事、やってみたい。知らないこと、知りたい。

ドキドキするけど、やってみたいな。あの洞穴の、裸電球がぶら下がる厨房の中に、小さな扉から出入りする人になりたい。

扉に書いてあった電話に電話をかけて、言われた通り、履歴書を携え、指定の日時に出向くと、前に見かけたペンギン歩きの小柄で色の黒い男の人が出てきて、愛想が良いような、ちょっと威嚇するような、不思議な対応。面接自体は簡単なのだけど。排他的なハリネズミと対峙してるみたいな気分。

私じゃダメなのかしら、とがっかり。ところが、結果は合格。ただし、当分は見習いで、試用期間とのこと。徐々にわかったのは、試用期間がどの位の期間かは人による。これまで何人もの人が試用期間中に辞めたりクビになったりしている、と。古参のバイトの人たちが色々と教えてくれるのでした。新参者を怖がらせながら、マウンティング&新人教育。

商売の形態としては、カフェ&バー&食堂。ただ、独自のカルチャーがありました。特有の『感じ』『雰囲気』『匂い』『センス』『不文律』『価値観』です。そこを、感じられるか、好きか、馴染むか、支えられるか、役立つか、が見習いから正式採用になれるか否かを決める。正式採用が決まると、ママさんから名前を与えられる。あなたのリングネームはこれ、と。もしかしたら、ママさんが名前を思いついたら、正式採用になれる、という流れだったのかもしれません。ママさんのネーミングセンスは独特で、素敵でした。

ペンギン歩きの色の黒い小柄な男性と、化粧っけのない痩せた女性が、オーナー夫妻。パパさん、ママさんと呼びなさい、と。ご夫婦ともに、日本人離れした風体でしたが、お二人とも日本人。中身は、日本人離れしていて、ぶっ飛んでましたが。その頃、ママさんはあまり店に出なくなっていたので、私はあまり接点がなかったけど、ママさんこそが、ナタラージャの御神体なのだろう、と感じました。なんの才能だかわからないけど、豊かな才能とパワー。ハッとするオリジナルなセンスがありました。無軌道な勢いと情念、破天荒、凄み、独特なユーモア。

ある日店に行くと、店前の小窓の前のスペースに散らかっていた素焼きのカケラやガラクタ類が片付けられ始めていて、日に日に、少しずつ片付けられていって、どうなるのかなーと思っていたら、突如、ボッサボサの逞しい雑草たちが出現したこともありました😳💗😳💓

季節は冬。雑草たちはすっかり枯れて、ずっと前からそこに生えてたみたいな風情です。突如出現したくせに😁

雑草たちは、ママさんが北山の方に出かけて、掘って、運んで、移植したものでした。

店の中は、天井から壁から、全体を、山の蔓性の植物が冬枯れたもので、見事にあしらわれていました💗💓💗💓すごく素敵❤️息を飲みました😳😳無数の小さな赤い実たちが実直な可愛らしさで🥰そういうのを、照明に絡めて這わせたり、大きなテーブルのセンターに華やかにあしらったり。

今ではそういう鄙びた華やぎのある飾り方は珍しくありませんが、当時は他で見たことがありませんでした。そして、今思い返しても、やはり、あれは素敵な飾り付けだったと思うんです。儚くて、優しくて、可愛くて。


奥の壁が段になった所に、数カ所、燭台が置かれていて、ロウソクを灯すのが常でした。開店準備の時に、ロウソクを灯すのです。電気の灯りは極力抑えめ。途中でロウソクが消えると、スタッフがいちいち点火するのだけど、忙しいと手が回らない。真っ暗なまま、だったりするんです。

大体、窓は入り口の脇に木枠の小さな曇りガラス窓が一つあるだけで、ドアは木製ですから、外光が入らない造りの店なんですね。まさに、洞窟みたいな。

想像できますか?

そんな風だから、店内は、本当に、ちょっとあり得ない暗さだったんです。真っ暗に近い感じ。闇鍋みたいな。テーブルに置かれた料理がよく見えない位。笑 相対する恋人の顔がよく見えない位。笑 スタッフ達は入り口に近い厨房の中と、レジ(もしくはその付近)にいるから、店の奥の方はよく見えなくて、今日は誰もお客さんがいないなあ、と皆が思っていたら、閉店時間に、一番奥の真っ暗な席にお客さんがいて、物凄くびっくりした‼️っていうこともありました。笑 

寒い季節には、客席全部、電気は使わないで、店中にロウソクを灯す日もありました。洞窟の中に、温かな小さな灯りがポツポツ灯って、きれいでした。今思い出しても、口角が上がってしまうくらい。幻想的な、美しい夜だった。

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